ロングインタビュー

【PART 2】予防医療のエキスパートから都政へ

――化学品メーカーの取締役・研究所長から都議会議員に転身したきっかけは。

私のバックボーンは化粧品、慶應義塾大学医学部との共同研究で培った医薬品、そして食品の研究開発なんです。

 

もともと食品は栄養源、化粧品は体を健やかに保つものとされ、機能性より安全性が重視されてきました。ただ、近年は消費者ニーズの高まりと科学技術の進歩を背景に、化粧品や食品を対象とするヘルスケア産業では、効果効能(エビデンス)の評価方法を構築し、エビデンスを有するヘルスケア商品については、その効能をうたうことができるようになりました。

 

例えば、2014年に機能性表示食品制度が導入され、消費者庁の管轄で、食品も機能をうたってよくなり、化粧品のシワ改善評価方法の構築と、新たな新素材開発につながっています。


官民合同で「機能性表示食品制度研究会」をつくり、幹事会社約10社の一員として議論を重ねました。業界利益の追求だけでなく、官民で連携して機能性表示食品制度をつくり上げ、ヘルスケア産業の領域拡大をリードすることができました。

国民の健康維持に役立ち、医療費削減につながる予防医療でもあります。有益な素材として海外に受け入れられれば、外貨の獲得、経済成長にもつながります。「これが本当の仕事だ。政治家になって、政策によってこうした動きを一気に動かしてみたい」と政治を意識するようになりました。

――今では生活に身近な制度になりました。どのように進めてきたんですか。

会社では、統括責任役員として、健康長寿の実現に食品が重要になるとみて、三重県にある工場を買収し、滋賀県にある研究所と統合するなどしました。それをヘルスケア産業特化の研究所とし、初代の統括責任役員に就任したんです。

 

それまでは、主に化粧品部門のグループ会社と、主に食品、医薬品を取り扱う別のグループ会社の研究開発部門は別々の研究所にあったんですよ。


医薬品が対処療法とすれば、病気にならないための取り組みを担うのがヘルスケア産業と認識されつつありました。科学技術の進歩に伴うエビデンスの蓄積が進み、ヘルスケア産業が予防医療分野で貢献できることがわかりつつある過渡期でした。私は健康維持・増進、予防医療の重要性を意識し、ヘルスケア産業は予防医療産業という新たな領域を拡大できると確信しました。会社人としては、会社の持続発展の道筋をつけられるよう力を尽くしました。社会貢献でも意義は大きく、大変やりがいがありましたね。

――業界から国全体へと視野が広がっていったのですね。

増大する医療費をいかに抑えるかは、日本の財政の大きな課題です。それには予防医療しかない、食で健康になってもらおう、と考えました。

 

国難というべき課題であっても、国も民間も一体になって対策を考えれば、もっと良くなります。民間企業だって、やればできます。有識者も国のために頑張っています。官民が連携することの意義をリアルに実感しました。ステージを変えるために、政治の側に行って戦略的に予算を振り向けて民間を引き上げる取り組み、戦略性も必要だと考えるようになりました。

――研究職、研究所長としては、どんな実績を重ねたのですか?

高齢化が進む中でも病気にならないように、脳科学をベースとした研究でストレスの抑制を数値化して明らかにしました。化粧品を使って「心地よかった」という結果も、ニルスという装置を使って数値化して明らかにしたんです。

 

野口英世は、情熱があっても当時は電子顕微鏡がなかったので、黄熱病を解明することはできませんでした。私、そして一緒に頑張った仲間たちは、幸運にも情熱をもち、最新技術も取り入れることができました。島津製作所から1億円の器材をレンタルしました。大阪大学を視察し、研究者に会社で講演してもらうなどし、地道に協力を得るために努力したことが実りました。

薬事法では、化粧品は身の清潔に保ち、老化を抑えるものと定義されています。化粧品が医療的な働きをすることがないよう、薬事法で縛られてきましたが、その縛りが緩められる兆候がありました。

そこで、特許室長とタッグを組んで新たな特許を申請しました。脳の血流を測る方法と、化粧品のマッサージで血流が改善し、軽度な認知症が治る脳の改善の二つです。化粧品の領域を拡大し、新たな事業化への道を切り開きました。会社から慶應義塾大学に研究員として派遣され、学んだことが生かせました。

――患者本人として、家族として認知症に向き合う人が増えていますね。

アルツハイマー病は認知症の67%を占めます。一度患うと、根本的な治療薬がない中で長期間生きざるを得ません。身内の方々にとっては介護の負担も大きく、第二の患者と呼ばれるほどです。何とか根本的な治療薬をつくりたかったんです。

 

認知症になると老人斑が蓄積され、それが脳の神経細胞を殺しているとする仮説が業界の大勢を占めていて、根本的治療薬がない状態です。私の慶應での恩師が蓄積された老人斑そのものに情報伝達という機能を担っていることを明らかにし、その論文が世界的な科学誌「サイエンス」に掲載されたんです。原因と思われた老人斑は発症の結果として蓄積されたもので、原因がほかにある可能性を指摘し、アルツハイマー病研究に一石を投じられました。


――健康長寿社会に向けた今後の課題は。

専門家訪問の様子

東京も「2025年問題」に直面します。「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者になり、「団塊ジュニア」が高齢者に近づきます。病気になる人も増えてきます。明るく乗り切れるよう対応したいですね。それには、病気にならないようにするのが重要です。

 

病気の予防に寄与する食品、化粧品分野のヘルスケア産業の育成を都に訴え続けてきました。2020年4月、都立産業技術研究センターにヘルスケア産業支援室ができ、食品健康部門の研究開発、都内の中小企業への技術支援が進んでいます。その取り組みをしっかりサポートしてまいります。


また、医学博士、客員教授、会社役員として積んできた経験を生かし、予防医療、受動喫煙対策にも尽力したいと考えています。がんにならない健康長寿社会を都民の皆様と一緒につくり上げるために、今後も精いっぱい取り組んでいきます!